それまで、健診は2週間に一度でしたが、特に問題もなく、
安定期に入った5ヶ月からは、月に一度になりました。
そろそろ胎動が始まる頃、と聞いていたので、よくおなかに手を当てていました。

性別がわかったのもこの頃。私は、男の子が欲しい!と思っていました。
彼も男の子を望んでいましたし、古いけど、一応、長男の嫁だし、初孫だし。
もちろん女の子でも良かったんですけど、一人目が女の子だと、二人目を産むとき、
「次は絶対男じゃなきゃ!」っていうプレッシャーがあるだろうから。

5ヶ月の健診のとき、先生が、「性別知りたいですか?」と。
待ってました!

「はい!!」「男の子ですねー。間違いないです。」と、先生は断言。
やったー!!やったー、男の子だ!!

ところが。エコーの画面を見つめる先生の目が、一瞬けわしくなりました。

「ん?…何かなこれは。卵巣が腫れているのかな?」
「ええっ?」

これまで経過はきわめて順調だっただけに、ショック。

「いや、違うな。どうやら筋腫があるみたいですね。」
「えええっ?!」

子宮筋腫!!
生理痛などほとんどなかった私には、無縁の病気だと思っていました。
大ショック。

子宮の上のほうで、外側にあったため、
これまでの健診では見つけられなかったらしいのです。

「赤ちゃんには影響ないでしょう。妊娠中に手術をすると、出血が多く危険ですから、
このまま様子を見ましょう。出産すると小さくなることも多いです。ただ…」
「ただ…?」
「ときどき筋腫が変性して、痛むことがあります。」
「その場合は?」
「鎮痛剤を飲むか、まあ、ずっと飲みつづけるわけにもいかないので、
痛みが続くようなら入院して抗生剤を打ちます。だいたいそれで治ります。」

はあ、そうなんですか。
私は突然のことにびっくりでした。まあ、痛くも無いし、いいか。

ただ、赤ちゃんのためと思って一生懸命栄養とっていたのに、
それが筋腫にとられていたかと思うと、すごくくやしい!
通常より大き目のこのおなかは、赤ちゃんではなく筋腫によるものだったのだ!

その次の週のことでした。
お腹に痛みを感じました。筋肉痛のような痛みです。
耐え切れないほどではありませんでしたが、
気になって、時間外だったけど病院に行きました。

「うーん、子宮の張りでもないし、恐らく筋腫が痛んでいるのでしょう。
鎮痛剤を出しておきますので様子をみましょうか。」

鎮痛剤を飲むと、すぐに痛みは引きました。
それからも、普通に仕事に行きましたが、
ときどき痛くなり、その都度鎮痛剤を飲みました。
鎮痛剤を飲むと、嘘のように痛みは引きました。

それから、数日後の夜のことでした。
私は、晩御飯の下ごしらえをして、主人の帰宅を待っていました。

その日の献立はブリの照り焼き。今でも覚えています。
こたつに入ってTVを見ていると、だんだんお腹が痛くなってきました。
お腹の痛みには慣れていましたが、鎮痛剤は切らしていました。

「うー、なんか今日のは痛いな。」
痛みは、どんどん強まってきました。もう動くこともままなりません。
「これはヤバイ。電話しよう。」彼に電話して、状況を伝えました。
「ご飯何か買って来ようか?」
「いいよ、もう下ごしらえしとるけん。それより早く帰ってきてね。」

電話してる間にも、痛みはどんどん強くなってきて、
電話からこたつまでの2メートルくらいの距離を移動するのにも、
痛くて動けなくて、寝っころがったまま、
「逆歩腹前進状態で」ずりずりと動きました。

なんというか、病的な痛みではなく、
「筋肉痛」という感じなのです(そりゃ、筋腫は筋肉の腫瘍だから)。
だから、体を動かさなければ、全然痛くないのですが、
少しでも動かすと、激痛。
ほんとに。筆舌に尽くしがたいとはこのこと。
今、家が火事になっても逃げられないぞ、死ぬぞ、と思いました。

そうこうしているうちに、待ちに待った彼が帰ってきました。
「大丈夫~?」「うん、大丈夫。それよりおなかすいたよ。ブリ焼いて。」
私は寝っころがったままでした。
ご飯ができて、食べるために体を起こすのも大変でした。
おなかの筋肉を使わずに起き上がるのは至難の技です。
ちょっとでも筋肉を使うと、息が止まるほどの痛さ。声も出ません。
涙が出てきます。でも、いったん起き上がると、全然平気なのです。

食欲も普通にあり、ご飯を食べ終わりましたが、相変わらず動くと激痛。
このままではトイレもお風呂も無理。
夜11時ごろでしたが、病院に電話をし、彼に鎮痛剤をもらってきてもらいました。
鎮痛剤飲み、寝ることにしましたが、当然着替えもできません。
その夜は、身動き一つとれないまま、なんとか眠りにつきました。

朝になると、鎮痛剤が効いたのか、少しは動けるようになりましたが、
やはり痛い。朝一番で彼と病院に行きました。

「じゃあ、入院しましょうか。そのほうが安心でしょう。」
「はい、わかりました(わー、大変なことになったなあ)。いつからですか?」
「今からですよ。」
「えっ!!今からですか?」
「じゃあ、お昼からにします?お昼ご飯は病室で食べますか?」
「あ、は、はい。」

とんとん拍子に入院の話がすすみ、私はあっという間に、
妊婦から病人になってしまいました。
3人部屋でしたが、専用のTVや電話、冷蔵庫があり、
落ち着いた感じの造りでした。
いわゆる病院のベッドではなく、木でできていて、
しかもボタン一つでリクライニングになるという快適さ。
ちょっとした旅行気分で、どきどきしながら横になっていると、
早速お昼ご飯が届きました。
その日は肉うどん。しかも超おいしい!
さすが食事がおいしいと有名な産院だけあります。
次の日には、和風の懐石料理が出ました。
いくらの上に金箔がのっていたり、茶碗蒸の中にふぐの白子が入っていたり、超豪華。
(体を起こすことができないくらい痛かったので、横になったまま、一人で食べました。)

点滴で抗生剤を打っていたのですが、
1日たっても2日たっても痛みはひきませんでした。
3日目の朝、とうとう先生が、
「よし、こうなったらとりましょう」とおっしゃいました。
「はい…。手術はいつですか?」
「明日が水曜日で、午後は手術の日なので、明日にしましょう。」
「明日!!」

入院の時もそうでしたがかなり決断の早い先生です。
(ちなみに女医さんだったのは初診のときだけで、
このときからずっと副院長が主治医でした。)

それまで順調だっただけに、急に入院、手術となり、家族は相当心配していました。
私自身は、小学生のときに盲腸の手術をしたことがあったし、
先生を信頼していたので、特に不安はありませんでした。
ただ…。妊娠中の手術は、一人ではありません。
子宮の中には、5ヶ月の赤ちゃんがいます。
しかもその子宮を切ってしまうのですから、
赤ちゃんがびっくりしないか、それが心配でした。
先生から、手術の詳しい内容を説明されました。
筋腫が上のほうにあることと、なるべく子宮を刺激しないようにするために、傷口が普通よりも大きくなってしまうこと。
それと、その後出産は帝王切開になってしまうこと。


帝王切開!!
ガーン。これもまた予想外の展開です。
子宮に傷をつけるので、万一、陣痛の最中に、
子宮が耐え切れずに破裂すると大変だから、ということでした。
あーあ…。陣痛ってどんなんだろう、一度は経験したいと思っていたのに…。
傷ってどれくらいかな、跡に残るんだろうな…。

その日の夜から絶食でした。
手術は、その最中はもう開きなおってるからいいのですが、
準備がとても大変です。
当日は水も飲めないし、朝から点滴、浣腸、剃毛、血液検査…。
しかも、おなかが痛いまま。

手術台の上に上がると、まず導尿です。これは初体験。ちくんとしました。
看護婦さんってすごい、こんなことまでするんだあ…。
それから、体をくの字に曲げて、脊髄の中に麻酔を打ちます。
これが相当痛い。ゴリゴリ、という感じで、思わず「痛い!」と言ってしまいます。
麻酔は、あっという間にききました。
麻酔が効いたかどうか確認するために、先生がおなかをつまんで、
「痛いですか?」と聞くのですが、
「どこがですか?」と間抜けな答えをしてしまいました。

目にガーゼがかけられて、どうやら手術が始まったようです。
しばらくすると、「わー、大きい」という声が。
意識は、少しだけあるのですが、ぼーっとしています。
そのうち、「終わりましたよー」と声がかかりましたが、もう半分夢の中でした。
筋腫は、かなり大きかったみたいで、なんと1300g!!
写真で見ましたが、牛タン(スライスする前の、生のやつ)みたいでした。
赤ちゃんは無事。おなかがずいぶんひっこみました。
そうか、これが5ヶ月の正しい大きさか…。

無事に終わってほっとしたのはいいのですが、
痛み止めの注射を刺しっぱなしです。背中に。
しかもトイレにも立てないから、導尿したまま。
動くと違和感があります。もちろん腕には点滴。
動けないって本当に苦痛ですね。

もっと苦痛だったのは、何も飲めなかったということ。
点滴してるので、おなかはそんなにすかないんですが、とにかく喉が渇く!
「おならが出るまでダメ」とのことで、耐えるしかありませんでした。
術後2日目になって、看護婦さんにお願いしました。
「一口だけでも飲んだらダメですか…?」
「おなかがびっくりして、痛くなるかもしれませんよー。」
まるで小学生に諭しているかのよう…。
だって、本当に喉が渇いてたまらないんだもん!
「ガスが出たら、夜中でもいいからナースコールしてくださいね。」
そうしてガスが出るのは今か今かと待ちわびていました。
ようやく、夜中の2時ごろ、出たのです!!
もううれしくてうれしくて。
恥ずかしさも忘れ、「ガスが出ました~。」とナースコールで呼びました。
その時飲んだオレンジジュースのおいしかったこと…!!

それから一週間ほどで無事退院できました。
しかし、会社は辞めることになりました。
「できれば退院しても働きたいのですが」と言ったのに、「体が大事だから」と。

それってクビ?
しかも離職票がなかなか送られてこない。
電話してみると、「だって妊婦は働かないでしょ?」だって。
おいおいっ、私は働きたいって言ったじゃないか!!
失業保険だって絶対もらうぞ!!

やっと送ってきた離職票には、「自己都合退職」の文字が。
そりゃ、入院したのは私が悪いが、辞めたいとは言ってなーい!!
しょせんは派遣社員。そんなものです。ちっムカツク。今でもムカツク。
結局そんな状態では次の仕事を探せるわけでもなく、
おとなしく専業主婦になったのでした。

退院してからは、1週間くらい寝たきり状態でした。
何しろ、おなかを20センチくらい切ったので、起き上がるのも至難の技。
おまけに赤ちゃんは順調に大きくなってるから、体もどんどん重くなって。
いやー、大変でした、ほんと。